the CHILDREN。
なんだこれは…!?
防護服の広告から、原発事故を扱った作品ぽいな…とは思っていましたが、なんと舞台は英国。
登場人物は、原発を創り出した物理学者たち。
でもでも、全然、日本のことに思えるし、登場人物もアカデミックなテイストはあるものの自分の生き方を肯定したい普通の人たちなのです。
この前観たばかりの『ぼたん雪が舞うとき』の閉塞感が蘇ってきて、いきなり息苦しくなりました。

原子力を扱ってきた専門家でも、目に見えない放射能に取り囲まれていることに怯えてしまう原発事故…。

原発から少し離れた、知人に借りた一時的な住まいで繰り広げられるのは、言葉にいっぱい意味を含んだ愛憎劇で、原発に対するメッセージを感じさせるのは、最後の最後です。

翻訳劇っぽい言葉の多さやユーモアは感じるものの、この3人の関係がどう発展するのか、過去に何があったのかを推測しているうちに、ぐんぐん引き込まれていくすごい作品です。
最後に突きつけられるテーマも、遠いことではなく、自分自身のこととして考えさせられる、演劇の理想的な形ともいうべき作品です。

ルーシー・カークウッドという英国の劇作家が書いたって本当?
と終わった途端確認したくなって、プログラムを買いました。
やはり日本の東日本大震災に着想を得て、調査して舞台を英国に変えて書いたそうです。

このプログラム、内容濃くて、買った甲斐がありますよ。
演出家の栗山民也さんの「なにか『書き手の衝動』といった書き手の中にたぎるような熱い衝動が見える作品に惹かれる」という言葉や、「ぼくはどんな作品であっても社会という現実の枠組の中での人間同士の関係を創っているつもりだし、演出とは、その中で個人が社会とどう向き合うのか、どうぶつかり合うのかを考えることだと思う」なとなど示唆に富む言葉が書かれているし、物理学者の池内了教授の共時性と通時性についての文章や原子爆弾を作ったオッペンハイマーについて語っている中沢志保教授の文章も面白いです。
西川美和監督の東日本大震災を目撃したときの気持ちも、ものすごく共感出来ました。
「文学も美術も演劇も映画も、今そこにある世界の危機を微塵も救うことはできない。」
「遠く海を隔てた別の島国の作家が頭を悩ませ、格闘したのだという事実に励まされもした。優れた想像力は海を渡り、空を飛ぶ。私たちの悲劇は私たちだけの悲劇ではないし、私たちの罪も、どこかで同じように背負おうとする人がいるのだ。」
演劇の存在する意味を再確認出来たような言葉でした。

作品は、震災に続く津波、原発事故の後という特殊な環境ではあるのですが、必死で生活を守ろうとするヘイゼルと、独身で自由奔放に生きてきたローズの振り返る人生観の対比と含みのある会話のやり取りが最高に面白かったです。
自分の人生を肯定したいと思いつつ、妬みや疚しさを隠せずにいる。
ロビンという男性を取り合った仲だということが余計に話を複雑にします。
トイレの水が溢れたり、ヘイゼルがいない間の2人の囁き、あんたなんて大嫌いだったという叫び合い、ドキドキするシーンがいっぱいありました。

一時期よく使われた「勝ち組」「負け組」を想起させて、ますます他国のこととは思えませんでした。
翻訳劇なので、セリフの量がハンパないのですが、もう一度、きちんとゆっくり聞き直したい、いや、読み直したいほど心に刺さる言葉がいっぱいあります。

私は3人の子どもがいますが、4人の子どもを育てたヘイゼルより、子どもはもちろん結婚もせず、乳がんを患ったローズに共感することが多かったです。
それは、病気を患ったことがあるという経験のせいかもしれません。
タイムリミットが見えてきたとき、この世で遺せる何か、子どもたちの将来のために出来ることを考えたからかもしれません。
でも、もっと大きく共感できたことは、生活者としての能力の足りなさかな?

ローズは、いつかヘイゼルみたいになりたかったと言います。
なんでもきちんと出来る人…薬を飲むのも、トイレ掃除も…
でもなれなかった。

私もです。
きっちり生活したい。
でも、毎日バタバタで、その時その時を必死でやり過ごしています。
守るべきものはいっぱいあるのに、ちっとも力になれないでいます。

だからこそ、余命が限られていることを感じた今、人類のために、次の世代のために立ち上がりたい…ものすごくよく分かりました。
果たして、同じように自分が立ち上がれるかどうか分かりませんが、そんな生き方がしたいと思いました。

作品最後があまりに鮮烈で、観客が呆然としてしまい、拍手が起こったのはらカーテンコールが始まってからでした。
スタンディングオベーションも、当然!
高畑淳子さんの涙ぐんだ笑顔にもらい泣きしそうになりました。
高畑淳子さん、若村真由美さん、鶴見辰吾さん、誰が欠けてもこの作品は成立しなかっただろうと思わせるリアルな演技力でした。
照明のリアルさも…前明かりが少なくて苛つく程でしたが、ここぞと顔の表情を見せるべき時はすっと明かりが入りました。
SSで、鋭い昼間の反射から夕暮れてくる感じ、ドアを開けると入ってくる光も素敵でした。
役者さんが前を向いて話すシーンはほとんどなく、ずっと観客は引きで目撃者として参加しているはずなのに、共感し、入りこんでいく感じは、演出の力か、ストーリーの力か!?
本当にすごい作品でした。

北九州でもう1日、富山と宮城でも上演があるそうです。
たくさんの方に観ていただいて、どう感じられたか、聞いてみたい作品です。